土地家屋調査士の業務は、測量士のそれと似て非なるものです。転職前から漠然とイメージはしておりましたが、土地家屋調査士における測量はあくまで「手段」であり、業務を遂行する上での一つの要素に過ぎないということを日々の業務の中で感じております。
1. 「仕様書」ではなく「民法」と「感情」がルール
測量士の業務は、多くの場合、国や自治体が定める「作業規程」や「仕様書」に沿って進められます。しかし、土地家屋調査士が向き合うのは、必ずしも論理的ではない「個人の感情」や「先祖代々のこだわり」です。図面上の正しさだけでは、境界は決まりません。法律(民法・不動産登記法)を背景に持ちつつ、地権者の心に寄り添う力が不可欠となります。
2. 測量機を覗く時間よりも、玄関先で話す時間が長い
測量士時代は「いかに効率よく、精度高く点を打つか」が評価の基準でした。一方、土地家屋調査士にとって、現況測量はあくまで「立会のための資料作り」に過ぎません。業務の核心は、厳しい隣地所有者の自宅へ何度も足を運び、頑なな心を解きほぐす「泥臭いコミュニケーション」にあります。測量精度以上に、日程調整や事前説明の丁寧さが、プロジェクトの成否を分けるのです。
3. 「機械」と向き合うか、「人」と向き合うか
測量士は「大地(地球)」を相手にし、仕様書通りに作業を進めることに集中できます。しかし調査士は、社会的地位も価値観も異なる多様な「人」を相手にします。境界立会という、時には一触即発になりかねない緊張感のある現場で、中立・公正な立場として合意形成を図る力。これこそが、技術力以上に重要視される「対人折衝力」の正体です。
4. 境界確定は、最高難度の「プロジェクトマネジメント」
ただ測るだけではなく、過去の資料を紐解き、現地の痕跡を探し、関係者全員が納得する一点を見出す。土地家屋調査士の仕事は、法務・技術・交渉のすべてを統合するマネジメント業務です。「測量機を覗いている時間以外の動き」こそが、プロとしての価値を決定づけます。
5. 教訓:技術の先にある「納得感」を提供せよ
これから土地家屋調査士を目指す方や、測量士からの転身を考えている方は、「自分は技術者である前に、法律家であり、交渉人である」という意識改革が必要です。クライアントが求めているのは「綺麗な図面」ではなく、隣人とトラブルなく将来へ資産を繋ぐための「安心と納得」であることを忘れてはなりません。