土地家屋調査士の隣地地権者「折衝」のリアル

1. はじめに:境界確定は「計算」ではなく「人間関係」

  • 測量は機械が行いますが、境界(筆界)を決めるのは最終的には「人」です。
  • 土地家屋調査士の仕事としてイメージされるのは、測量作業や登記申請といったことが先行しますが、実際に日々の業務を行う中で多くの比重を占めるのは、関係する地権者との折衝と言っても過言ではありません。
  • 本記事においては、なぜ、今これほどまでに「隣地とのやり取り」が難しく、重要なのかを考察してみます。

2. 最初のハードル:ご挨拶と「連絡先の壁」

  • 「怪しい者ではありません」から始まる信頼構築
    • 確定測量の実施が決まっているような現場であれば、現地での測量作業の際に、関係する隣地を訪問(インターホンを鳴らして回る)し、最初のご挨拶を済ますことが多いと思います。
    • この時にお会いすることができれば、今後の立会の実施を見込んだ動きとして、ご連絡先の電話番号を伺い、後続作業をスムーズに進めていくことが可能となります。友好的な方であれば、測量作業のために土地へ立ち入って良いか確認の上、隣地内から測量作業をさせていただくこともあります。
  • 連絡先(電話番号)を教えてもらえない苦悩
    • 昨今の特殊詐欺への警戒心もあり、「見ず知らずの業者に電話番号を教える」ことへの心理的ハードルは、かつてないほど高まっています。
    • 確かに、私が逆の立場で業者の訪問を受けたとしたら、警戒心が先行するだろうというのは想像に易いです。
    • この心理的ハードルを乗り越えるために、次のような工夫をしております。
    • ・最初に測量業者の者であり、お隣の〇〇様方の土地の測量に入らせていただいているということを名刺を添えて明示する
    • ・黒っぽい色の作業着で統一することはせず、なるべく清潔感のある服装を心がける
    • ・他の隣地の方々にも、同様のお願いをさせていただいていることを伝える
    • ・連絡先を教えていただく目的は、立会のための日程調整を事前に行いたい旨であるということをはっきりと伝える

3. 時間との戦い:不在者・空き家問題がもたらすリスク

  • 「会えない」ことが最大のボトルネック
    • 隣地が空き家、あるいは所有者が遠方のケースでは、立会をお願いする相手を特定し連絡先を入手するまでに大変な苦労を伴うことがあります。立会依頼の手紙をお送りしても反応がなければ、時間をずらして複数回にわたり訪問をしてみたり、他の隣地の方にどのような生活リズムで生活されている方かを聞き出したり、お会いするために時間をかける必要があります。
    • また、隣地がマンションである場合には、マンションの管理者に連絡を取りどのような手続きで立会を進めるか(定例の理事会で決裁にかける必要があったり、理事長の承認があればそれで良かったり、ケースによります)を確認したうえで業務を進めていく必要があります。
    • 隣地が会社所有である場合には、土地の登記簿上では登記名義人住所しか確認できませんので、当該会社に電話して担当窓口を確認したり、中小企業であれば法人登記簿を取得することで代表取締役の住所を確認できますので、その住所宛に案内文を送付したりといった対応が必要となります。
    • 以上のように、隣地を訪れても、直ぐに立会権者にお会いできないような場合には、実際にお会いするまでの手続きに労力がかかります。
  • 決済日は待ってくれない
    • このような場合でも、不動産売買の決済日が決まっている状況であればそれに向けて業務を進める必要があり、多くのプレッシャーがのしかかってきます。

4. 現場の修羅場:一歩間違えれば「不法侵入」?

  • 測量の前提としての「隣地立ち入り」
    • 既設杭の観測にはどうしても隣地に入る必要があるケースも多いです。
  • 最悪、警察を呼ばれることも
    • 「ちょっと測るだけ」という認識のズレが招くトラブルも実際に聞いたことがあります。
    • 「ちょっと一点だけ」の油断が、パトカーを呼ぶ事態に。 不在だからといって無断で敷地へ立ち入ることは、絶対に避けるべきです。最近は防犯カメラの普及により、後日警察へ通報されるケースも実際に起きています。「今日中に終わらせたい」というプロとしての焦りと、法的なリスク。この葛藤をどうコントロールするかも、現場のリアルな技術と言えます。
    • 話で聞く分には、きちんと挨拶を済ませたのちに隣地へ立ち入れば良いと単純な話に思えますが、実際の現場においては次のような葛藤に悩まされることになります。「隣地に立ち入らないとどうしても観測できない境界点があるが、隣地のインターホンを鳴らしても隣地は不在の様子である。その一点の観測を残して帰社すれば、再度現場まで来ないといけなくなる。隣地に立ち入りさえすれば、観測作業自体は一瞬で済む。」

5. 筆界確認書の重み:土地の境界を確定させる最終作業

  • 筆界確認書の署名押印がもらえないケース
    • 境界点の決定根拠を法務局や市道に係る資料を示して分かり易く説明することは当然に必要です。
    • しかし、筆界確認書への署名や押印を断られるのは、境界の位置云々の理由ではなく、測量対象地と隣地との間で以前からトラブルを抱えているようなケースがこれまで見てきたほとんどです。
    • 最初の挨拶のための訪問に始まり、忙しい生活の中で立会のお時間をいただくべく日程調整を何とかお願いし、最後にご納得いただいたうえで筆界確認書に署名押印をいただくという一連の作業の成果としてはじめて、筆界確認書を取り交わすことが可能となります。

6. おわりに:スムーズな測量のためにできること

  • 土地所有者の皆様へ:隣人との日頃のコミュニケーションがいかに大切か。
    上記の通り、筆界確認書の取り交わしを断られるのは、土地所有者と隣地地権者がもともと友好的な関係でないケースがほとんどです。
    ライフステージの変遷にあわせて、誰しもが将来的に所有地の譲渡を検討する可能性があると思います。
    また、自らの世代ではなくとも、土地所有者の身にもしものことがあれば、その土地を相続した親族に同様に関わってくることとなります。
    日頃から隣人との良好な関係を築いていくことこそが、いざ確定測量をスムーズに行う上で最も重要なことと言えるかもしれません。
    仲が悪いと、いざ売りたい時に売れなくなる(決済が遅れる)という実害が出ることもありますので、この記事が少しでもご参考となれば幸いでございます。

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